個々の患者さんで、タバコが肺がんを起こしたという証明はできないのでは?

 たしかに、個々の患者さんで、タバコだけで肺がんになったかどうかは証明は難しいです。

 肺がんになった患者さんは、遺伝子が色々な部位で異常を来しています。それは、様々な発がん物質を肺に取り込む事で起こっています。
 発がん物質の親玉は、タバコですが、ディーゼル排気ガスや、アスベストなども影響しますし、さらに発がん物質に暴露された場合の体質的ななりやすさなども影響します。

 これは、肺がんだけでなく、高血圧や糖尿病などの他の病気でもいえます。体質、年齢、運動量、塩分の摂取、肥満、喫煙など多くの要因により発症します。ただし、それぞれの要因がどれくらい特定の個人に関与しているかは分かりません。

 そこで、疫学の出番となる訳です。多くの人を集めて、統計学の手法を用いて調べます。多くの要因の中で、どれが大きな原因となっているか、その要因でどれくらいの人が病気になったり、死亡したりするかが分かります。
 人の病気は原因と結果が一対一でないのですが、医学統計の手法を用いる事で、タバコの害は非常に大きなものである事が科学的に証明されてきました。 これは、病気で亡くなられた多くの方々の苦しみや悲しみのこもった貴重なデータから得られた知識です。決して薄っぺらいものではなく、大事に生かしていく必要があります。

 疫学や統計を軽視する論調もあります。しかし、医学の進歩は疫学や統計なしではなしとげられなかったことを忘れてはいけないと思います。
 薬が効く効かないも疫学的手法で判断されます。実薬と偽薬を飲んだ人を比較するなどの方法で、高血圧なら「どちらが血圧が下がったか?」、あるいは「がんなら、どちらが長生きできたか?」などを調査して、本当に効くお薬が分かってきたのです。

 もし、統計の手法がなければ、病気を祈祷で治すと言っていた時代から進歩する事はできなかったと思います。

 タバコ会社は、統計を信じられると都合が悪いので、軽視あるいは、ある特定の統計学者(平山雄先生) の信頼をおとしめる謀略をおこなってきました。下記に関連サイトを紹介しました。興味ある方は見ていただけたらと思います。

<タバコ会社の平山論文を貶めるプロジェクトについての関連サイト>
1. 受動喫煙の害を隠すプロジェクトについて

 下記Hongらの参考文献を日本語訳して下さっています。

2. 受動喫煙の害を隠すプロジェクト
 公衆衛生ネットワークの切明義孝先生の力作レポートです。リンクをクリックするとpdfがダウンロードされます。
 
<参考文献>

 これは、少し違う話題ですが、JTが「未成年喫煙防止キャンペーン」をどのような戦略で行ってきたかが暴露されている内部文書からの論文です。興味のある方は英語ですが頑張って読んでいただけたらと思います。